<整理解雇とは?>
会社が業績不振で、会社側の都合により、人員整理のために労働契約を解除することを整理解雇といいます。法律上は普通解雇の一種ですが、労働慣例により他の普通解雇と区別するために、整理解雇という用語が使われています。
これは懲戒解雇や、きちんと働けないことによる普通解雇とは違って、解雇されることについて労働者に責任のない場合をいいます。
<では誰に責任が?>
会社の業績不振については、基本的に経営者側つまり経営者と経営者に近い立場の人たちに責任があります。
市場環境の変化や景気の変動による業績不振は、誰にも責任がないようにも見えますが、突き詰めて考えれば、変化に対応し切れなかった経営者の責任です。少なくとも労働者の責任ではありません。
たとえ、取引先の経営不振による影響を受けてしまった場合でも、厳しく考えれば、経営者の取引先管理が甘かったということになります。やはり、労働者の責任ではありません。
<道義的に考えて>
整理解雇された労働者は、経済的にも、社会的にも、精神的にも大きな痛手をこうむります。
ですから、責任のある経営者側から、責任のない労働者に退職を求めるのならば、道義的に考えて、まず経営者側が大きな負担をしたうえで、なお、会社の存続のためにどうしても必要ならば、労働者に深くお詫びをしたうえで行うことになります。
<法律上の制限は?>
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」という規定があります。〔労働契約法16条〕
しかし、これでは内容が抽象的すぎて、具体的な場合にその解雇が有効なのか無効なのか判断に困ります。
<整理解雇の有効性の基準となる4要素>
そこで実務的には、多くの裁判の積み重ねで示された4つの要素から、解雇の有効性を判断することになります。4つのうち1つでも要件を欠いていたら、解雇が無効になるということではなく、総合的に判断されます。
<要素1:経営上の人員削減の必要性>
事業の縮小が必要となり、どうしても余剰人員が出てしまうので、人員を削減せざるを得ないという状況が必要です。
昔の裁判では、厳格な判断が行われていて、人員を削減しなければ会社がつぶれてしまうような状況が必要とされていました。しかし、最近の裁判では、ある程度まで経営者側の判断を受け入れる傾向にあります。
それでも、客観的に会社の財政状況に問題を抱えているとはいえない場合や、新規採用を続けているような場合には、人員削減の必要性は否定されやすくなります。
<要素2:解雇回避の努力>
まずは、役員報酬の3割以上カットや、不採算店舗の閉店などを行い、それでも足りないときに、配置転換や希望退職者の募集などを行ったうえで、整理解雇に踏み切るなどの手順が必要です。
勤務地や職種を限定されて採用された従業員でも、解雇されるよりは異動のほうが負担が少ないということもあります。ですから、異動を考えないで解雇というわけにはいきません。
<要素3:解雇対象者の人選の合理性>
差別的な人選は許されません。会社に対して批判的・非協力的な社員から優先的に解雇ということもできないのです。
ただ、人選の基準は一律ではありません。転職が容易な若い人から優先的に解雇という基準も、人件費の高いベテランから優先的に解雇という基準も、それぞれに合理性が認められます。
会社としては、再建のために必要な優秀な人材は残しておきたいところですから、人選の合理的な基準の設定については頭を悩ませるところです。
<要素4:手続きの相当性>
経営者側がかなり前もって十分な説明をつくすこと、労働者側との誠実な協議など、労働者に不信感を残さないよう、慎重に手続きを進めることが求められます。
<整理解雇が無効とされる場合>
整理解雇の対象とされた労働者が、会社に対して裁判で整理解雇の無効を主張した場合には、会社は4つの要素について、やるべきことはやったという証明をしなければなりません。
もし、この証明に失敗すれば、労働者はまだ従業員の地位にあることが確認されます。そして、退職したものとされ支払われていなかった給与も、会社から支払わなければなりません。
整理解雇の無効を主張し、会社に戻りたいという労働者は、愛社精神にあふれているかただと思います。こうした労働者と会社が争うのは悲しいことです。
その一方で、整理解雇の対象となった人が、何人も会社に復帰したら、ますます会社の経営が苦しくなるのも事実です。
たしかに、会社は業績不振を理由に従業員を解雇できるのですが、以上のようなことを、よくよく考えたうえで行っていただきたいと思います。
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