近年は使用者側でも「解雇はそう簡単にできない」という認識が広まり、定着してきたこともあって、紛争件数としてはやや減ってきている様に思いますが、それでも依然として「解雇・退職トラブル」は、個別労働紛争のあっせんで扱われる事件の主なものであることに変わりはありません。
解雇・退職トラブルで最も誤解が多く、労働者の誤った対応が散見され、重要ポイントになるのが「退職届・退職願」の取り扱いです。
退職とは「労働契約の終了」を意味しますが、一般的な分類では、
①自主退職(労働者による解約)
②合意退職(労使双方の合意解約)
③解雇(使用者による解約)
④自然退職(有期雇用契約の終了、定年、休職期間の満了など)
の4種類があります。
この内、退職届・退職願の提出が必要なのは、①自主退職と②合意退職の場合のみです。
しかし、この点を誤解している労働者はとても多く、使用者から「本来解雇に相当するのだが、君の転職や将来のことを考えて穏便に済ませたいと思うので、直ぐに退職願を提出してください」等と言われると、退職願を提出し受理されて合意退職に至るというケースがよくあります。
退職届・退職願を出した後「不当解雇ではないか」と大騒ぎして、我々特定社会保険労務士や弁護士に相談に来られる労働者の方も少なくないのですが、これは後の祭りです。退職届・退職願を出してしまってからでは「不当解雇」で争うことは99%できません。
解雇・退職トラブルに遭遇した際に、労働者が心掛けるべきは、まず使用者に何を言われても「退職届・退職願は書かない」こと、次に「労働者側あっせん代理人を受けてくれる特定社会保険労務士に相談する」ことの二点です。
あっせん代理の現場感覚で言えば、解雇トラブルの8~9割は「不当解雇」であり、争えば認められず、労働者側に有利な結論に至ります。
多くは金銭解決となりますが、解雇から解決に至るまでの賃金(バックペイ)と最終的に使用者側の要望を受け入れて退職することを含んだ解決金を併せれば結構な額になりますから、解雇・退職トラブルについては、泣き寝入りなどすべきではありません。
そのためにも、既述の様に、労働者は初動を間違えない様にすることが大切なのです。
「退職届」と「退職願」の違い
「退職届」は提出した時点で労働契約の「解約」を意思表示したことになり、効力が発生して退職は撤回できなくなります。
「退職願」の場合は、労働者から使用者への合意解約の申し込みであるので、使用者のそれを承諾する意思表示が労働者に達した時に、労働契約終了の効果が生じることになります。
ですから使用者が承諾の意思表示をする前であれば、撤回も可能です。
通常は労働者側では「退職願」を使うのが一般的ですが、使用者側の退職に関する引き留め圧力が強く、一日も早く労働者が退職したい場合などは「退職届」を使うことになるでしょう。
いずれにしても、解雇・退職トラブルに巻き込まれたら、直ぐに労働者側あっせん代理人を受けてくれる特定社労士にご相談されることをお勧めします。
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