<現在の加入基準>
会社で働く人は、一定の条件を満たした場合、社会保険(健康保険と厚生年金)に入らなければなりません。会社には、入らせる義務があります。
その一定の条件とは次の3つです。
・会社が社会保険に加入している事業所(適用事業所)であること
・正社員など正規職員の4分の3以上の労働時間と労働日数があること
・臨時、日雇い、季節的業務で働く人ではないこと
このうち「4分の3以上」という基準は、法令ではなく昭和55年6月6日付けの内翰(ないかん)と呼ばれるものに書いてあります。内翰の「翰」は「手紙」のことで、都道府県民生主管部(局)保険課(部)長宛に厚生省保険局保険課長・社会保険庁医保険部健康保険課長・社会保険庁年金保険部厚生年金保険課長が出したものです。
<新しい加入基準>
社会保険の加入対象者は平成28年10月より拡大され、短時間労働者であっても、次の条件を満たす人は新たに加入対象者となります。
・労働時間が週20時間以上であること
・月額賃金が88,000円以上であること(年収106万円以上)
・勤務期間が1年以上見込まれること
・社会保険に加入している従業員が501人以上いる企業に雇われていること
ただし、学生は適用除外となっています。
<基準に満たない企業の従業員でも…>
社会保険に加入している従業員が500人以下の企業に雇われている人であっても、労使の合意を条件に社会保険に加入できるようにするという法案が、3月11日に今国会に提出されました。
この法案が可決成立すると、平成28年10月に施行されることになります。
<基準変更の目的>
それでは、なぜ短時間労働者の社会保険への加入義務が拡大されるのでしょうか。
その目的は、労働者でありながら被用者保険の恩恵を受けられない非正規労働者に、被用者保険を適用しセーフティネットを強化することで、社会保険における「格差」を是正することにあります。
年金については、厚生年金に加入している配偶者の扶養に入っていても、将来受け取る老齢年金は、原則として老齢厚生年金よりも受給額の少ない老齢基礎年金となります。
健康保険については、プライベートのケガや病気で仕事を休んでも、傷病手当金を受給できないなどの「格差」があります。
こうした短時間労働者の立場を踏まえ、なるべく多くの労働者を社会保険に加入させようということなのです。
また、将来のことはともかく、働かずに配偶者の扶養に入っていた方が、保険料がかからない点で有利になるような仕組みを縮小することで、特に女性の就業意欲を促進して、今後の人口減少社会に備えるというねらいもあります。
<パート社員の対応>
短時間労働者のうち、特に主婦であるパート社員の中には、年収を130万円未満に抑え、労働時間も週20時間台に抑えて、夫の扶養から外れないことを希望する方が多いという実態があります。
こうして社会保険料の負担を避け、夫の所得税の扶養控除の恩恵を維持することで、家計全体の手取り収入を確保しているのです。
しかし、社会保険に入ることになれば、手取り収入は減ってしまいますし、これを避けるために勤務時間を減らしても、やはり収入減となります。
そのため、多少時給は下がっても、社会保険に加入している従業員が500人以下の中小企業に転職し、手取り収入を確保する動きが出ると予想されます。
<企業の対応>
こうした動きを予測して、社会保険に加入している従業員が501人以上いる大企業では、パート社員の時給を上げることによって、手取り収入が確保できるようにする動きも出てくるでしょう。しかし、これは大企業の社会保険料負担も増大させることになり頭の痛い問題です。
結局、人手不足の中、大企業と中小企業との間で、パート社員確保のための綱引きが行われるようになると思われます。
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