2016年9月23日金曜日

【新106万円の壁】って何?

平成28年10月より、扶養に関する壁が新たに一枚追加されます。それが<106万円の壁>。これまで103万円の壁・130万円の壁に苦労していた扶養家族が、また新たな働き方を考える必要が出てくるかもしれません。でも今回の改正でメリットのある扶養家族もいるんですよ! 

目次

2016年から106万円の壁が登場!

2016年10月から、パートタイマーの厚生年金の加入条件が変わるということは知っていましたか?

これによって今まで【扶養】として働いてきたのに扶養に入れなくなるという人が多くいるようなので、注意が必要です。
詳細については、後で詳しく述べますが、対象となる人とメリットとデメリットを簡単に列挙してみましょう。
1.対象となる人
 ①1週の所定労働時間が20時間以上であること。

 ②雇用期間が継続して1年以上見込まれること。

 ③月額賃金が8.8万円以上であること。
   一般に106万円の壁と言われているが、月額賃金に注意
   年度の途中から月額賃金8.8万円以上であれば、年間106万円に達しなくても対象
 ④学生でないこと。

 ⑤常時500人を超える被保険者を使用する企業(特定事業所)に勤めていること。 

2.メリット
 ・将来、厚生年金がもらえるようになる。
 ・国民年金の保険料を納めていた人は納める必要がなくなる。
 ・傷病手当金、出産手当金がもらえるようになる。
3.デメリット
 ・当面の社会保険料が増える(手取りの収入が減る)。

 ・会社によっては配偶者手当が減額になる。
ページTOPへ

2種類の【扶養】の意味

扶養には2種類あるのはご存知ですか?
1つ目が
【税法上の扶養】。こちらの管轄は国税庁です。
そして2つ目が
【健康保険・年金の扶養】。こちらは厚生労働省が管轄となっています。つまり、全く違う制度だということ!だから、別々に考えることが大事です。

ページTOPへ

1-1税法上の扶養

毎年年末調整や確定申告の時期になると、その年の所得を計算して所得税額と住民税を計算しますよね。その所得税額を計算するときは、所得すべてに所得税率をかけるわけではなく、それぞれの家庭・家族の状況に合わせて「所得控除」が考慮されることになっています。「所得控除」とは、その金額分には税金はかけませんよというもの。所得から「所得控除」を引いた金額に税率をかけて、所得税額・住民税額を算出することになっています。その所得控除にはいくつかの種類があります。障碍者控除や勤労学生控除、またすべての納税者に適用される基礎控除や扶養控除などがあります。【扶養控除】に当てはまる親族になるためには、いくつかの条件があります。そのすべてに当てはまっていない限り、その人は扶養親族とは認められません。所得を申告するAさんの「扶養親族」が3人いる場合には、そのAさんの所得から3人分の「扶養控除額」が引かれます。そしてその金額に所得税率をかけて、Aさんの所得税額が導き出されます。

ページTOPへ

親族の範囲

扶養控除が適用される「扶養親族」には、6親等内の血族・3親等内の姻族である親族や、養護・養育を委託された里子や老人が当てはまります。配偶者の連れ子など、血がつながっていなくても姻族に当てはまる場合にも認められるそう。

ページTOPへ

生計を一にしている

親族の範囲の中でも、納税者とその親族が「生計を一にしている」ことが認められなければなりません。ここでいう「生計を一にしている」中には、同居していなくても認められる場合があります。
同居して同じ家計簿の中で生活をしている家族はもちろんですが、例えば地方に住んでいる親の生活費を納税者がまかない、定期的に生活費を送金している場合。また単身赴任のように納税者と配偶者が別々の場所に暮らしていても、納税者のお給料で配偶者や子ども達が生活をしている場合なども当てはまるとされています。
同居している場合であっても、それぞれに異なる家族があるなどで独立して生活をしているとみなされる場合もあります。例えば大きな実家で、父母、その子どもたち、そしてそのそれぞれの家族がみんな一緒に暮らしている場合などでは、それぞれの家族ごとに家計があります。したがってこの場合には、「生計を一にしている」とは認められないでしょう。
また、地方にいる親に兄弟同士で生活費を送金している場合には、兄弟みんなが扶養にすることはできないとされています。兄弟のうちの誰か一人がその親を扶養親族として申請することはできるでしょう。
「生計を一」にしているかどうかの証拠の提出は、法令上決められていることではありません。しかし会社や自治体によっては、振込をした証拠や、送金の振込票などで確認を求められる場合もあるそう。いつでも応じられるように、そういった領収書などは残しておくことをおすすめします。

ページTOPへ

所得制限

もう一つ、扶養親族になるために大切な条件があります。それが扶養親族となる者の「所得制限」です。扶養親族として申請したい人の一年間の合計所得金額が【38万円以下】であることが必要です。お給料のみが所得となる場合には、給与収入が103万円以下であることが必要とされています。
また、納税者が青色申告・白色申告をしている場合には、その対象となる扶養親族が専従者給与・専従者控除でないことも条件にあげられます。専従者給与・専従者控除の場合には事業のお給料が支払われ、その金額を必要経費とすることができますが、そうした場合にはその給料の受取人は扶養親族とはなれないのだそう。
遺族年金や老齢年金などを受け取っている人を扶養親族とする場合、非課税所得である年金の金額は所得としては見なされません。例えば生計を一にしている父親が遺族厚生年金が120万円あるという場合にも、その金額は所得とはなりませんので、年金以外の所得がない場合には扶養親族とすることはできるそう。

ページTOPへ

控除額は

これらの条件すべてに当てはまった人で扶養親族として申請できることになると、4つのカテゴリに分けられます。
一つ目は、その年12月31日現在の年齢が16歳以上の<一般の控除対象扶養親族>。この場合、納税者の所得から控除として引かれる金額は38万円となります。
二つ目が<特定扶養親族>。その年12月31日現在の年齢が19歳以上23歳未満である扶養親族が当てはまりますが、この場合には63万円が控除されます。
その年12月31日現在の年齢が70歳以上である<老人扶養親族で同居老親等以外の者>であれば48万円、そしてその老人扶養親族のうち納税者・配偶者の直系の尊属で、納税者・配偶者と同居している<同居老親等>の場合には58万円が控除されることになります。
例えば、所得が500万円の納税者Aさんと生計を一にしている16歳の子Bさん、19歳の子Cさん、25歳の子Dさん、そして別居している70歳の父、同居している70歳の母が全員扶養控除対象の扶養親族としましょう。
Bさんは一般の控除対象扶養親族=38万円、Cさんは特定扶養親族=63万円、Dさんは一般の控除対象扶養親族=38万円、父は老人扶養親族で同居老親等以外の者=48万円、母は同居老親等=58万円が控除されることになり、Aさんの所得500万円-(38万円+63万円+38万円+48万円+58万円)=255万円に所得税率をかけて、所得税が計算されるということになりますね。
ちなみに同居老親は「普段は同居しているが現在は長期入院している親」は認められますが、老人ホームなどへ入所しており、その老人ホームが居所となるような場合には同居しているとは認められないそう。
またもちろん生計を一にしていないといけないので、それぞれ違う家庭を持っており生活費の計算は別という者はあてはまりませんので注意が必要です。

ページTOPへ

1-2配偶者は扶養家族ではない!

これまで見てくると、扶養親族には配偶者が含まれていないということに気づくと思います。納税者の配偶者は扶養親族とは違う括りで考えられるんです。
配偶者が当てはまる所得控除は「配偶者控除・配偶者特別控除」というもの。まず「配偶者控除」から見ていきましょう!

ページTOPへ

配偶者控除

配偶者控除が認められる配偶者には、その年の12月31日の時点でいくつかの条件があります。まず民法規定の配偶者であるということ。「内縁の妻」など正式に籍を入れていない場合、配偶者としては認められないことになります。また、納税者と生計を一にしている・年間所得金額が38万円である・青色申告や白色申告の事業専従者でないという、扶養親族と同様の条件もあります。
配偶者控除の控除額は38万円です。また、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の控除対象となる配偶者は48万円の控除額となります。

ページTOPへ

103万円の壁の正体

パートをするときなどに「103万円までに抑えたほうがいい」と聞いたことありませんか?その103万円の壁はここからきているんです。年間所得金額の条件は38万円ですが、お給料をもらっている人には「給与所得控除」というものがあります。所得を計算する際、お給料を稼ぐために必要な必要経費はお給料から差し引いてよいというものですが、お給料が180万円以下の場合にはその給与所得控除は650,000円~720,000円。そしてお給料から給与所得控除額を引いた金額がその人の<所得金額>となります。
したがって、お給料をもらっている配偶者の場合、お給料が基礎控除額38万円+給与所得控除額65万円=103万円以下でなければ配偶者控除が受けられないという条件があるんです。
もし配偶者控除を受けられないと、どのくらい所得税額に影響がでるのでしょうか。500万円の所得があるAさんの配偶者Bさんの給与収入が100万円だったとしましょう。給与収入が103万円以下なので、Bさんは控除対象配偶者となりますね。
500万円からAさんの基礎控除額の38万円+配偶者控除額38万円が引かれることになり424万円に所得税率をかけます。330万円超~695万円以下の場合、所得税は20%をかけた後、427,500円を引いて求められます。よってAさんの所得税額は424万円×20%-427,500円=420,500円となるでしょう。
ではBさんの給与収入が150万円だったとしましょう。するとBさんは控除対象配偶者となれませんので、Aさんの所得税額は500万円-Aさんの基礎控除額38万円=462万円に所得税率をかけて計算されます。462万円×20%-427,500円=496,500円がAさんの納める所得税となりますね。この時点で76,000円の差が生まれます。
さらにBさんが配偶者控除として当てはまらない場合には、Bさんは自分で所得税を納める必要が生まれます。150万円の収入から給与所得控除を引くと150万円-65万円=85万円。ここから基礎控除額38万円を引くと47万円です。195万円以下の場合には5%をかけて所得税が計算されます。47万円の所得税は47万円×5%=23,500円となるでしょう。
まとめてみると、Bさんの給与収入が150万円の場合と100万円の場合、収入としては50万円の差があります。しかし150万円の給与収入の場合にはAさんの納める所得税額が76,000円アップし、Bさんも所得税23,500円を納めることになるため、合計99,500円をプラスして支払うことになります。これに加えて、Bさんは健康保険・厚生年金も払う必要が出てくるでしょう。

ページTOPへ

配偶者特別控除

納税者本人の合計所得金額が1,000万円以下で、配偶者の所得が38万円超76万円未満、その他の条件が配偶者控除に当てはまる場合には「配偶者特別控除」が適用されることがあります。配偶者の所得金額によって最高38万円まで控除されます。
例えば、上に出てきたAさんBさん夫婦。Bさんの給与収入が140万円、つまり所得が75万円だったとします。Aさんの合計所得は1,000万円以下なので配偶者特別控除が適用されることになりました。
75万円の所得であれば3万円の配偶者特別控除額となるので、(500万円-基礎控除38万円-配偶者特別控除3万円)×20%-427,500円=490,500円がAさんの所得税となるでしょう。

ページTOPへ

1-3扶養家族になれない子

Aさんの家族には、配偶者のBさん・15歳の子・18歳の子がいるとしましょう。Aさんのお給料で生活している家族は4人です。しかし「扶養親族」には15歳の子は認められないことになっています。年末調整などで申請するたびに迷う人もいるかもしれませんが、扶養親族となれるのは16歳以上であること!と覚えておきましょう。
また同居していたとしても、例えば18歳の子がアルバイトで38万円以上の所得(お給料で103万円以上)稼いでいる場合には扶養家族とは認められないでしょう。所得制限は配偶者だけではないからです。その場合には自分で所得税を払うか、103万以下になるようにシフトを調整する必要がでてくるでしょう。
年収100万円以上となると住民税を納める必要がでてきます。自治体によって住民税額は異なりますが、103万円の年収では納める住民税は約10,000円としましょう。つまり103万円の年収の人で扶養親族となった場合には102万円の手取りと考えられますね。
では104万円の年収になるとどうなるでしょう。住民税は約10,500円とします。所得が39万円のため扶養親族には当てはまりません。ですので、自分で所得税を納めることになります。104万円-基礎控除額38万円-給与所得控除額-65万円=1万円。これに税額5%をかけると500円です。つまり、所得税額+住民税額=11,000円。つまり手取りは104万円-11,000円=1,029,000円となるでしょう。
本人の納める税金のほかに、納税者の扶養親族の控除がなくなるため負担が増えることになります。1人の控除がなくなった場合、納税者の年収が500万円の場合には約7万円の税金が増えると言われています。世帯で考えると、1万円の収入が増えたために約7万円の出費になるということ。
本人の手取りだけでなく、家庭全体の収入や納税額を考えた上で、扶養控除・配偶者控除について考えることをおすすめします!

ページTOPへ

2-1健康保険の扶養家族

ここから頭を切り替えます。次は健康保険のお話です。同じ「扶養」という言葉を使っていても、まったく異なるお話と考えていきましょうね!
ここでお話する健康保険とは「公的医療保険」のこと。その公的医療保険には3つのカテゴリがあります。1つ目が会社員とその家族が対象の<健康保険>、2つ目が自営業者などとその家族が対象の<国民健康保険>、3つ目が75歳以上のすべての人が対象の<後期高齢者医療制度>です。今回は健康保険と国民健康保険について考えていきましょう。

ページTOPへ

2-2国民健康保険

まず<国民健康保険>について。健康保険や共済組合などがない会社に勤めているサラリーマンや、自営業者、仕事をしていない者など「健康保険・後期高齢者医療制度」に当てはまらない人すべてが加入する保険です。
国民健康保険の保険料は加入者ひとりひとりにかけられることとなっています。つまり「扶養」という概念はありません。保険料は市区町村や前年所得などによって異なりますが、一括して世帯主に請求がいくことになっています。同じ世帯に何人もの国民健康保険の加入者がいる場合などには、その人数に応じて保険料も変わるそう。

ページTOPへ

2-3会社などの健康保険

会社員である程度のお給料がある場合、会社の健康保険に加入することがあります。自分の会社の健康保険に加入している人は健康保険証にも記載がある通り、その保険の「被保険者」となります。
そして、被保険者の家族・親族も「被扶養者」としてその健康保険に加入することができる場合があります。被扶養者となった場合にも、被保険者と同じように保険給付をしてもらうことが可能です。この被扶養者となるためにはいくつかの条件があります。税金の扶養の条件と似ていますが、少しずつ違うポイントがありますので注意しましょう!
またそれぞれの健康保険によって条件が異なる場合があります。必ず自分の加入する健康保険の条件を確認するようにしましょうね。

ページTOPへ

親族の範囲

被扶養者となれるのは、被保険者の直系尊属(父母・祖父母)や配偶者、子、孫などです。さらに条件によっては、被保険者の三親等以内の親族や配偶者の父母・子なども認められる場合があります。ここでいう配偶者は戸籍上の婚姻届がなくても認められることがあります。

ページTOPへ

主として被保険者に生計を維持されている

被保険者の直系尊属(父母・祖父母)や配偶者、子、孫などが被扶養者となる場合には、被保険者の収入によって生活が成り立っていることが必要です。この場合、別居していても生活費は被保険者がまかなっているのであれば認められることがあります。
さらに、被保険者の三親等以内の親族や籍を入れていない配偶者の父母・子などの場合には、同居して被保険者の収入で生計を維持されているという「同一の世帯」であることが条件となります。

ページTOPへ

所得制限

一般的に「年間収入が130万円未満であること」という所得制限があります。「60歳以上の人が被扶養者となる場合には180万円未満であること」という場合もあります。この年間収入とは<これから先の見込み>で考えることができます。これまで収入がたくさんあった場合にも、これから無職となる場合には被扶養者となれるそう。
また同居している場合には被保険者の年間収入の1/2未満である、または被保険者の年間収入以上でないこと、別居している場合には援助額よりも少ないことなどの条件も加えられるそう。

ページTOPへ

被扶養者になるメリット

一般的に75歳未満で健康保険の被扶養者となった場合、保険料の請求はされません。自営業者の配偶者や子の場合にはそれぞれに保険料がかかりますが、健康保険の被扶養者であれば自分の保険料を支払うことはないとされています。

ページTOPへ

2-4国民年金と健康保険の関係

日本に住む20歳以上60歳未満の人は必ず加入することになっている国民年金。国民年金の被保険者は3つのカテゴリに分けられています。
1つ目が<第1号被保険者>。これは自営業者やその妻、学生・無職の人などが当てはまり、国民年金保険料を月々納めます。将来は国民年金を受け取ることができるでしょう。
2つ目が<第2号被保険者>。会社員や公務員で、厚生年金をお給料から支払っている人です。お給料から引かれる厚生年金保険料の中には国民年金保険料も含まれているため、将来国民年金と厚生年金両方を受け取ることができるでしょう。
そして3つ目が<第3号被保険者>。これは第2号被保険者に扶養されている配偶者のみが対象です。これに当てはまると、保険料の負担なく国民年金を受け取ることができるでしょう。
この<第3号被保険者>となれる配偶者の扶養とは、健康保険の扶養となっているかどうか。税金の扶養となっていても、健康保険の扶養となっていない場合には<第3号被保険者>とはなれないため、自分で国民年金保険料を納める必要があります。
また、健康保険の扶養となっていても配偶者ではない子どもなどの場合には、第1号被保険者として国民年金保険料を納める必要がありますので忘れないようにしましょう!

ページTOPへ

2-5<106万の壁>

以上を踏まえると、年収130万円以下であれば健康保険料を支払わなくてもOK。しかも配偶者であれば、国民年金保険料も支払わなくてもOKということがわかりますね。
しかし平成28年10月から、会社の健康保険などの適用を拡大するということが決まりました!これまで週30時間以上のパートやアルバイトの方の場合には、扶養を抜けて自分で会社の健康保険に加入することとされていました。しかし新しい制度では【週20時間以上・年収106万円以上・勤務期間1年以上見込み・学生以外・従業員 501人以上の企業に当てはまる場合には、その会社の健康保険・厚生年金に加入する】ということになっているんです。
厚生労働省によると、この範囲に当てはまる人は約25万人いると言われています。とっても身近な問題。もう少し詳しく見ていきましょう!

ページTOPへ

サラリーマンの妻の場合

例えば、夫がサラリーマンの妻Aさんはパート収入が年収125万円あるとします。平成28年10月までは夫の会社の被扶養者の条件である年収130万未満に当てはまっていたため、夫が被保険者・妻が被扶養者となっていました。そして妻は国民年金の<第3号被保険者>となっていたため、健康保険料・国民年金保険料の両方を納める必要はありませんでした。
しかし会社の健康保険適用拡大の対象に企業に勤めていたAさんは、平成28年10月以降その企業の健康保険に加入、そして厚生年金にも加入することになりました。すると、Aさんは自分のお給料から健康保険料と厚生年金保険料を支払うことになる=第2号被保険者となるでしょう。
年収125万円のAさんの健康保険料を月5,000円・厚生年金保険料を月9,000円としましょう。月14,000円がお給料から引かれることになり、年間では168,000円を納めなければならない計算になりますね。つまり月々の手取りが減るので、家計への負担が増えてしまうと言えるでしょう。
また、年収が130万円を超えた場合には、会社の家族手当等が減額される場合がありますので、その点もよく調べておくことをお勧めします。
最近話題となっているのが、夫が早く死んだ場合に、遺族厚生年金が一部もらえなくなるという問題です。遺族厚生年金は夫のが受給していた額の4分の3もらえるのですが、自分の厚生年金の受給額を差し引いた額になります。その際には、自分の厚生年金があっても、受給額は同じになる可能性はあります。しかし、夫がなくなるまでの間、自分の厚生年金がもらえるというのは、少しうれしい気持ちになるのではないでしょうか。

ページTOPへ

メリットも、

当面の支払保険料が増える代わりに、将来の厚生年金の受給額が増えます。
厚生年金に20年間加入した場合には、81歳まで厚生年金をもらい続ければ払った分以上に戻る計算になります。
国民年金の第3号被保険者の場合、保険料の負担はありませんが、将来もらえる年金は国民年金のみでした。しかし厚生年金もおさめる第2号被保険者となると、将来国民年金とあわせて厚生年金ももらえることになります。
もしこれから20年間厚生年金を納めることになった場合、夫の基礎年金・厚生年金、Aさんの基礎年金に加えて約14万円の老齢厚生年金がもらえるでしょう。一か月に約12,000円の余裕が生まれることになるんです。現在の生活が少し厳しくなるか、将来少しゆとりができるか、人によって感じ方は変わります。でも貯金しないと将来生活できないと考えると、その貯金を国がしてくれる!というように考えても良いのではないでしょうか。

ページTOPへ

自営業者の妻は嬉しい

今回の改正、自営業者の配偶者にとってはちょっと嬉しい改正かもしれません。
支払保険料が減り、将来厚生年金が貰えるようになるのです。
自営業者で国民健康保険・国民年金第1号被保険者の夫を持つ、妻Bさんを見てみましょう。Bさんのパート収入が年収125万円あるとします。平成28年10月まではパート先での健康保険・厚生年金の加入ができなかったため、夫と同じく国民健康保険・国民年金第1号被保険者として保険料を納めていました。
国民健康保険を夫婦2人で加入し、月30,000円の保険料を納めていたとしましょう。また国民年金保険料も2人で月30,000円。合計60,000円の国民健康保険・国民年金保険料を納めていたとします。
会社の健康保険適用拡大の対象に企業に勤めていたBさん、平成28年10月以降その企業の健康保険と厚生年金にも加入することになりました。するとBさんは月14,000円をお給料から引かれることになります。
そして2人で納めていた国民健康保険・国民年金保険料は夫1人分の保険料となりますね。国民健康保険の保険料は25,000円となり、国民年金保険料は15,000円となるため、合計40,000円の保険料です。つまり、Bさんの保険料14,000円+夫の保険料40,000円=54,000円が2人分の健康保険・年金保険料となりました。
改正前と比べると年間6,000円の支払い保険料が減る。さらに将来もらえる年金も、Bさんの厚生年金が加わることになります。結果として改正後のほうがBさん夫婦にとっては良いということが言えるでしょう。

ページTOPへ

扶養家族にもメリット

106万円の壁は配偶者だけではありません。次に扶養家族の場合も見ていきましょう。
ほぼ同じ支払保険料で将来厚生年金がもらえるようになるのです。
月10万円、年間収入120万円のアルバイトをしている25歳のCさん。親の健康保険の被扶養者になっているため健康保険料は納めていませんが、第1号被保険者として国民年金保険料を月16,000円納めています。Cさんの会社は健康保険適用拡大の対象のため、平成28年10月以降その会社の健康保険と厚生年金にも加入することになりました。
これまで支払っていなかった健康保険料が約月5,000円が増え、さらに厚生年金保険料として月9,000円納めることになりました。合計毎月14,000円がお給料から引かれますが、これまで月16,000円の国民年金保険料を納めていたため、手元に残るお金はあまり変わりません。
しかも将来年金をもらうことになったとき、厚生年金がもらえることになります。ずっとアルバイトをしていたとしても厚生年金を受け取れるということで、将来が少し楽になるかもしれません。

ページTOPへ

おわりに

いかがでしたか?扶養家族にする場合のメリットやデメリットは理解できましたか?あえて扶養家族でいるために世帯収入がダウンしてしまったり、扶養家族を超えて働くことで、将来の年金の余裕が生まれるということもあります。
今の手取りだけを考えずに、ぜひ様々な側面からメリット・デメリットを考えて、働き方を決めてみてください!

ページTOPへ

労務トラブルの防止「退職届」と「退職願」

近年は使用者側でも「解雇はそう簡単にできない」という認識が広まり、定着してきたこともあって、紛争件数としてはやや減ってきている様に思いますが、それでも依然として「解雇・退職トラブル」は、個別労働紛争のあっせんで扱われる事件の主なものであることに変わりはありません。
解雇・退職トラブルで最も誤解が多く、労働者の誤った対応が散見され、重要ポイントになるのが「退職届・退職願」の取り扱いです。
退職とは「労働契約の終了」を意味しますが、一般的な分類では、
①自主退職(労働者による解約)
②合意退職(労使双方の合意解約)
③解雇(使用者による解約)
④自然退職(有期雇用契約の終了、定年、休職期間の満了など)
の4種類があります。
この内、退職届・退職願の提出が必要なのは、①自主退職と②合意退職の場合のみです。
しかし、この点を誤解している労働者はとても多く、使用者から「本来解雇に相当するのだが、君の転職や将来のことを考えて穏便に済ませたいと思うので、直ぐに退職願を提出してください」等と言われると、退職願を提出し受理されて合意退職に至るというケースがよくあります。

退職届・退職願を出すと「不当解雇」で争うことは99%できない
退職届・退職願を出した後「不当解雇ではないか」と大騒ぎして、我々特定社会保険労務士や弁護士に相談に来られる労働者の方も少なくないのですが、これは後の祭りです。退職届・退職願を出してしまってからでは「不当解雇」で争うことは99%できません。
解雇・退職トラブルに遭遇した際に、労働者が心掛けるべきは、まず使用者に何を言われても「退職届・退職願は書かない」こと、次に「労働者側あっせん代理人を受けてくれる特定社会保険労務士に相談する」ことの二点です。
あっせん代理の現場感覚で言えば、解雇トラブルの8~9割は「不当解雇」であり、争えば認められず、労働者側に有利な結論に至ります。
多くは金銭解決となりますが、解雇から解決に至るまでの賃金(バックペイ)と最終的に使用者側の要望を受け入れて退職することを含んだ解決金を併せれば結構な額になりますから、解雇・退職トラブルについては、泣き寝入りなどすべきではありません。
そのためにも、既述の様に、労働者は初動を間違えない様にすることが大切なのです。

「退職届」と「退職願」の違い

「退職届」は提出した時点で労働契約の「解約」を意思表示したことになり、効力が発生して退職は撤回できなくなります。
「退職願」の場合は、労働者から使用者への合意解約の申し込みであるので、使用者のそれを承諾する意思表示が労働者に達した時に、労働契約終了の効果が生じることになります。
ですから使用者が承諾の意思表示をする前であれば、撤回も可能です。
通常は労働者側では「退職願」を使うのが一般的ですが、使用者側の退職に関する引き留め圧力が強く、一日も早く労働者が退職したい場合などは「退職届」を使うことになるでしょう。
いずれにしても、解雇・退職トラブルに巻き込まれたら、直ぐに労働者側あっせん代理人を受けてくれる特定社労士にご相談されることをお勧めします。

パソコン使用規定、スマホ使用規定のお勧め


就業規則見直しの必要性

個人のスマートフォンからのネット投稿が原因で、会社の信用が低下したり、閉店に追い込まれたりというニュースが続いたこともありました。
会社が業務上の必要から従業員に貸与しているパソコンやスマートフォンは、本来、業務外の使用が認められない会社の物品です。
個人の所有物の使用を規制するのは困難でも、会社の物品なら合理的な範囲内での規制が許されます。会社を守るためにも、また安易な私的利用で従業員が非難されないためにも、就業規則に使用規程を加えることが必要でしょう。 

企業秘密の漏えい防止

インターネットの私的利用によって、ウイルスに感染する可能性が高まります。ウイルスに感染した端末から企業秘密が漏れることもあります。
就業規則には、私的利用の禁止を明確に定めましょう。これと連動して、懲戒規定にも修正が必要となることがあります。
また内容的には重複するのですが、パソコンやスマートフォンの貸与をする場合には、私的利用をしない旨の誓約書を提出してもらうのが有効です。 

意図的なデータ持ち出しの防止

うっかりウイルスに感染した結果、意図せず企業秘密が流出するというのではなく、名簿会社に売却する目的で顧客データを盗み出すという事件も発生しています。
この場合には、会社から貸与しているスマートフォンを私的に利用するのではなく、個人所有のスマートフォンを不正に使用することが問題になります。
今やUSB接続の充電ケーブルは、そのほとんどがデータ転送ケーブルを兼ねています。ですから、スマートフォンを充電しているのだと思いきや、データを盗んでいるということもありえます。
さらには、パソコンとスマートフォンの間でデータをリンクさせるのに、無線で行うということも普通に行われています。
こうしてみると、社外に流出しては困るデータの入ったパソコンを扱う従業員は、スマートフォンを持ち込めないというルールにする必要が出てきます。

モニタリング規定

労働時間中は、労働者は使用者の指揮命令下に置かれています。
これを使用者の側から見れば、労働者の業務を監視するという関係にあります。
ですから、本来、会社は従業員に貸与しているパソコンやスマートフォンの中にあるデータを確認する権限をもっているわけです。
とはいえ、会社が端末内のデータを確認するとまでは思っていない労働者が、端末内にプライベートなデータを残すかもしれません。
この場合に、会社には権限があるということで、プライバシーをあばいてしまったら、会社の方が非難されるかもしれません。
そうならないように、就業規則には、会社が端末内のデータを閲覧できる旨を規定し、きちんと周知しておきましょう。
さらには、企業秘密を管理する従業員が、データファイルをメールに添付して送信するということも考えられます。こうした危険を考えると、端末の使用履歴もチェックしなければなりません。 

少しでも安心するためには

就業規則の見直しというと、総務・人事の担当者が中心に改定案を作ることになるでしょう。しかし、こうした従業員が、端末でのデータ管理についての専門知識を持ち合わせていることは稀でしょう。
結局、労務管理についての専門家とデータ管理・ネットワーク管理の専門家とで、よく話し合い、打ち合わせを繰り返して就業規則の見直しを進めることが必要になります。
もし、社内に専門家がいないのであれば、社外の専門家の力を借りてでも、就業規則の改定や運用の定着を図る必要があります。
ここまでやって、初めて少し安心できるというのが、日本の現状なのです。