2017年7月15日土曜日

起業して従業員を雇った際にやるべきこと

  社員を雇用した場合、さまざまな手続きや届け出が必要となります。

1.最初に労働契約書を交わします

社員を採用した場合に最初にすることは、労働条件を明示して労働契約を結ぶことです。念のため書面で労働契約書を交わしておきましょう。労働条件は最低限、以下の項目について書面で明示しなければなりません。これを労働条件通知書といいます。
  • 労働契約の期間
  • 就業場所
  • 従事する業務
  • 始業・終業時刻、休憩時間、休日、休暇、交代勤務の場合の就業時転換
  • 所定労働時間を超える労働の有無
  • 賃金の決定、計算・支払方法、締切・支払時期
  • 退職に関する規程
「労働条件通知書」は、下記をご参照下さい。

2.採用者からの必要書類の提出

入社後に下記の書類を提出してもらいましょう。
  • 健康保険被扶養者(異動)届(扶養に入れる親族がいる場合み)
  • 源泉徴収票(その年に前の会社の給与所得がある場合)
  • 年金手帳(以前に加入していた場合、被扶養配偶者がいるときは配偶者の分も)
  • 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
  • 個人番号届(被扶養者がいる場合は被扶養者の分も)
  • 雇用保険被保険者証(以前に加入していた場合)
  • 口座振込依頼書(給与等の振込先)
  • 通勤手当支給申請書
3.社会保険の加入

雇用した社員が以下のそれぞれに該当する場合、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の被保険者となります。
・労働日数:1か月の所定労働日数が一般社員の概ね4分の3以上である場合
・労働時間:1日又は1週の所定労働時間が一般社員の概ね4分の3以上である場合

○個人事業主の場合労働者が5人以上は適応対象で、5人未満の場合は任意です。但し一部のサービス業(旅館、飲食、理美容業、税理士事務所、弁護士事務所など)は、5人以上でも任意です。

○法人の場合すべての事業者が適応対象です。
社会保険の被保険者となる社員を雇った場合、雇用の日から5日以内に、所轄の年金事務所へ健康保険・厚生年金保険の被保険者の届出が必要です

4.雇用保険の加入

・事業所規模にかかわらず、「1週間の所定労働時間が20時間以上で31日以上の雇用見込がある人を雇い入れた場合」に適用対象となります。
・最初に雇用保険の適用対象の社員を雇用する時は、保険関係成立に関する手続を済ます必要があります。
・そのあと事業所を管轄するハローワークに「事業所設置届」、「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。
・その後新たに社員を雇い入れた場合は、その都度、翌月10日までに、事業所を管轄するハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しなければなりません。そしてハローワークから交付された「雇用保険被保険者証」を事業主から本人に渡します。
なお、平成29年1月より65歳以上の従業員も雇用保険の対象となりましたので、注意が必要です。平成31年度までは、事業主、従業員とも保険料は免除されます。

5.労災保険の加入

労災保険は、労働者を使用するすべての事業に適用されます。
ただし、従業員の採用時に特に手続は必要ありません。労働保険料は、保険年度(4月から翌年3月まで)の初めに概算額で申告・納付し、年度終了後に確定額で申告し精算する仕組みをとっています。
最初に社員を雇った時は、労働基準監督署かハローワークへ「保険関係成立届」を提出し、「概算保険料申告書」及び「納付書」を作成の上、申告・納付します。「保険関係成立届」は雇用保険の加入の時と同じです。

6.法定帳簿の保存

法定帳簿とは、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿(タイムカード等)をいいます。
社員を雇用した日からタイムカード、休暇・早退・遅刻届などで「出勤簿」を作成し、「労働者名簿」、「賃金台帳」も作成して社員が退職してから3年間は保存しなければなりません。これらは役所より提出を求められる場合があります。労働基準監督署の調査等のときには必ず確認される書類になりますので、最初からきちんと帳簿を作成しておいてください。
「労働者名簿」、「賃金台帳」については、下記をご参照下さい。

①労働者名簿
労働者名簿は、各従業員について次の事項の記入が必要です。
  1. 氏名
  2. 生年月日
  3. 履歴
  4. 性別
  5. 住所
  6. 従事する業務の内容(常時30人未満の従業員の場合は、記入が不要)
  7. 雇入れの年月日
  8. 退職の年月日及びその事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由も含む)
  9. 死亡の年月日及びその原因
② 賃金台帳
賃金台帳は、次の事項を賃金支払いの都度、遅滞なく記入します。
  1. 氏名
  2. 性別
  3. 賃金計算期間
  4. 労働日数
  5. 労働時間数
  6. 時間外労働時間数、休日労働時間数及び深夜労働時間数
  7. 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額
  8. 賃金の一部を控除した場合には、その額
  勤簿
出勤簿については、法律上の規定はありません。
しかし「労働時間、休憩、休日」について定める労働基準法第4章の趣旨に照らし、使用者は従業員の労働時間を適切に管理する責務があることから、従業員の勤務について適正に把握できる帳簿の整備が必要であると考えられています。
出勤簿やタイムカードやICカード等の記録がこれに当たります。
○一般的な出勤簿等の記載事項
  1. 氏名
  2. 出勤日
  3. 出勤時刻、退勤時刻等
     労働者名簿と賃金台帳、出勤簿やタイムカード等の記録はいずれも
    3年間の保存義務があります。

「残業代ゼロ」法案 連合が首相に修正を要請 容認の方向

 連合(日本労働組合総連合会)の神津会長は、今月13日、安倍総理に対して、労働基準法等改正法案に関する要請を行いました。
 ここで話題に上っているのは、平成27年に国会に提出されて以来、継続審議となっている改正法案のうち、一番問題となているのは特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設 」(いわゆる残業代ゼロ法案)です。この法案には、中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率を引き上ること等、連合が評価している内容も盛り込まれています。
 しかし、この法案に盛り込まれている企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大や高度プロフェッショナル制度の創設については、長時間労働・過重労働を助長しかねないため、労働政策審議会の議論の段階から、連合は反対意見を表明していました。
 連合としては、現在でも、これらの制度を導入すべきではないという考えには変わりはないとしつつ、このままの内容で法案が成立することへの危惧が非常に強いため、要請を行ったとのことです。
 要請の内容は、次のようなものです。
・企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大について、一般的な営業職を明確に対象外とすること など
・高度プロフェッショナル制度の創設について、年間104日以上かつ4週間を通じ4日以上の休日確保を義務化すること など 
詳しくは、こちらをご覧ください。
<労働基準法等改正法案に関する要請について(連合HP)>
https://www.jtuc-rengo.or.jp/news/news_detail.php?id=1299
 なお、今後について、「政府は、連合の修正要求を受け入れる方針で、今月19日までに経団連も交えた三者で「政労使合意」を結び、今秋の臨時国会に修正を加えた労働基準法等改正法案を提出する見通し」といった報道もありました。今後の動向に注目です。

なお、労働基準法を一部改正する法案の概要は下記の通りです。
Ⅰ 長時間労働抑制策・年次有給休暇取得促進策等 
(1) 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し
(2) 著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設
(3) 一定日数の年次有給休暇の確実な取得 
(4)企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進
Ⅱ 多様で柔軟な働き方の実現
(1) フレックスタイム制の見直し  
(2) 企画業務型裁量労働制の見直し 
(3) 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設 

2017年7月14日金曜日

最低賃金引き上げのための支援策

 最低賃金については、年率3%程度を目途として、名目GDPの成長率にも配慮しつつ引き上げていくことで、全国平均が1000円以上になることを目指しています。
 厚生労働省は、今月12日に開催された「平成29年度中央最低賃金審議会目安に関する小委員会(第2回)」の資料を公表しました。
 まだ、具体的に目安を決める段階ではなく、下準備といった感じです。
 なお、「最低賃金・賃金引上げに向けた生産性向上等のための支援」についての資料も配布されており、地域別最低賃金の全国加重平均1,000円という目標達成のため、中小企業・小規模事業者への支援措置も、さらに推進・拡充されるものと思われます。

現在ある具体的な助成金としては、①キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)と②人事評価改善制度等助成金③業務改善助成金があります。

最低賃金引き上げのための支援策

キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)

人事評価改善等助成金

業務改善助成金

2017年7月13日木曜日

「働き方改革」まったなし!(1)平成31年4月の施行に向けて

 平成28年9月に発足した「働き方改革実現会議」の議論を踏まえ、働き方改革の概要が固まってきましたので、今後の予定を含め、お伝えします。
 今回は概要をお伝えし、今後順次、詳細についてお話ししたいと思いますのでご期待ください。

 働き方改革の目玉は次の3つです。

1.同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善
2.長時間労働の是正
3.高齢者の就労促進

 今までの進捗状況と今後のスケジュール

平成28年6月  ニッポン一億総活躍プラン閣議決定
平成28年9月  働き方実現会議発足
平成28年12月  同一労働同一賃金ガイドライン案公表
平成29年3月  働き方改革実行計画公表
平成29年6月  時間外労働の上限規制等について(建議)公表
平成29年6月  同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)公表
平成29年秋    関連法案の提出
平成31年4月  施行

 安倍総理の強いリーダーシップのもと、この働き方改革は始まりました。
特に、同一労働同一賃金に関しては、最初にガイドライン案が示され、それに沿って法整備が行なわれようとしています。これは異例のことです。働き方実現会議では労使双方のトップと有識者が入って議論していますので、この方向が大きく変わることはないと思います。「平成31年4月施行はまったなし!」それまで何も対応しないでは許されない状況になっています。

下記に参考資料を紹介しておりますのでご一読ください。

  ニッポン一億総活躍プラン(閣議決定)(平成28年6月)
  一億総活躍社会の実現に向けて(28年7月厚生労働白書)
  働き方改革に関する安倍総理発言(平成28年9月)
  同一労働同一賃金ガイドライン案(平成28年12月)
  時間外労働の上限規制等に関する労使合意(平成29年3月)
  働き方改革実行計画(本文)(平成29年3月)
  働き方改革実行計画(概要)(平成29年3月)
  働き方改革参考資料(平成29年5月)
  時間外労働の上限規制等について(建議)(平成29年6月)
  同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)(平成29年6月)

高額な定額年俸でも「残業代が含まれているとは言えない」 最高裁


 「医師(勤務医)の残業代込みの定額年俸が有効か否かが争われた訴訟の上告審判決で、最高裁第2小法廷は今月7日、「年俸に残業代が含まれているとはいえない」として、医師の請求を退けた2審の高裁判決を破棄し、未払い分の残業代を算定するため審理を高裁に差し戻した」という報道がありました。
 訴えていた医師は、平成24年に病院側と年俸1,700万円とする雇用契約を締結。午後9時以降や休日は「必要不可欠な緊急業務」などに限って時間外賃金が支払われることになっていましたが、医師が午後9時までの残業代なども支払うよう求めていました。
 一審、二審では、原告の医師の年俸が1,700万円と高額な点などから「基本給と区別できないが、残業代も含まれる」としていました。
 しかし、最高裁では、過去の最高裁判例を引用し、「通常賃金と時間外賃金(残業代)が区別できる必要がある」とした上で、今回の年俸契約ではこの区別ができておらず、残業代が支払われていたとはいえないと結論づけたようです。
 今年3月、タクシー運転手の歩合給に残業代が含まれているか否かが争われた訴訟も、最高裁までもつれました。このときの最高裁の考え方は、「賃金規則で定めた独自の計算方法を使っても、同法が定めている水準の残業代が実質的に支払われていれば適法」といったもので、残業代が実質的に支払われていたかどうかを検討するため、審理を同高裁に差し戻したというものでした。
これらの最高裁の判例をみると、残業代込みの賃金(基本給に残業代を含める制度や固定残業代など)については、
・一律にそのような制度が無効ということではない。
しかし
・通常賃金と残業代とを区別できる必要があり、実質で判断すべき。
という考え方が貫かれているように見受けられます。
 実質で判断されるので、労働者側勝訴のケースもあれば、経営者側が訴えを退けるケースもあるといったように、結論はさまざまになっていくかもしれませんが、重視されるのは、通常賃金と残業代とを区別できるかどうかです。
 その区別ができないのなら、残業代込みの賃金を導入すべきではないということになりますね。
 一時ブームを築いた固定残業代などの残業代込みの賃金。経営の見通しが立てやすいというメリットは残りますが、コスト削減はもちろん、事務の軽減というメリットも失われた感があります。今後さらに導入する企業が減るかもしれませんね。
 なお、今回の最高裁の判断について、「働き方改革を巡る今後の議論にも影響を与えるのでは?」と報じている報道機関もあります。
 専門職でどんなに高給取りでも残業代は必要ということですから、”いわゆる高度プロフェッショナル制度(ホワイトカラー・エグゼンプション)の導入に釘をさした”という捉え方もできるかもしれませんね。

2017年7月9日日曜日

【平成29年度】使いやすい助成金

今日は厚生労働省の助成金についてご紹介したいと思います。

この助成金の特徴は下記の通りです。
○助成金は返済不要!
○財源は労働保険料の事業主負担分
○労働保険の適用事業所であることが要件
○労働保険料の滞納がないこと
○出勤簿、賃金台帳、雇用契約書、就業規則など、法律で作成が義務付けられている帳簿を備えていること
 要件にあてはまれば返済不要で原則として支給される助成金ですが、労働保険料の納付や作成義務のある帳簿を備えていることが要件です。

【平成29年度】使いやすい助成金一覧

(1) 「キャリアアップ・人材育成」 に役立つ助成金

(4) 「健康診断」に役立つ助成金

(5) 「採用・雇用」に役立つ助成金

パワハラ・セクハラで元社長を提訴へ

 「ある農業機器メーカーの社員が、元社長から日常的にパワハラやセクハラを受けていたとして、近く、損害賠償を求め元社長を提訴する」という旨の報道がありました。
 元社長は、今年2月に代表取締役を解任されましたが、これまでに30人以上が退職に追い込まれたということで、会見を開いた社員らは、今月中にも、元社長に損害賠償を求める訴訟を起こすとのことです。
 具体的な発言内容や行動は下記の通りです。
・「こんな親に育てられる息子はかわいそうだ、ろくな人間にならない」
・「彼氏はいるのか、性交渉したことあるのか」と聞かれた(女性社員)。
・体を触られるなどのセクハラを受けた(女性社員)。
・「お前は腐ったみかんだ」・「人間のくず」・「あほか、お前は、ぶっ飛ばすぞ」
 ここまで露骨なパワハラ・セクハラはないにしても、ちょっと声を荒げて注意してしまったことが、「パワハラ」と受け取られるようなケースもあります。
厚生労働省のホームページにパワハラに関するアンケート用紙が出ていますので、一度確認してみてはいかがでしょうか。

具体的な質問内容の一部を下記に掲載します。

 Q5 最近1年間において、社内で次のような言動・行為がありましたか。

1.身体的な攻撃
①身体を小突く、ものを投げつける  

2.精神的な攻撃
②人前での感情的な叱責
③人格否定や差別的な言葉による叱責
④性格や容貌などへのからかいや非難
⑤悪質な悪口や陰口

3.人間関係からの切り離し
⑥挨拶や話しかけを無視
⑦必要な情報を与えない、会議から外す

4.過大な要求
⑧休暇取得の拒否、残業・休日出勤の強制
⑨一方的で遂行不可能な業務指示・命令
⑩必要以上の仕事への監視・関与 

5.過小な要求
⑪能力や経験に見合わない仕事の常時強制

6.この侵害
⑫私生活についての過度な介入
⑬飲み会などへの参加強制

実際のアンケート用紙は下記にありますので活用してみてください。
パワハラに関するアンケート用紙