2015年11月8日日曜日

就業規則の不利益変更

Q1:会社の業績が悪く、退職金規程どおり退職金が払えないので、新しい(退職金を切り下げた)規程を届出したいと考えていますが、労働基準監督署は受理してくれますか。(使用者)
A1:労働基準法第89条に基づき、意見書を添付の上、届出されるようであれば労働基準監督署は受理することになります。ただし、届け出たことによって刑事的な責任は免れますが、民事的に有効になるか否かについては別の問題で、次の労働契約法第10条(抄)の規定が参考になります。最終的な判断は労働基準監督署ではなく、裁判所がすることになります。

 
Q2:我が社の属する業界は先行き不透明です。そこで,我が社においても経営が行き詰まる前に,所定内賃金を1割カットするように就業規則を変更しようと思っています。もちろん,変更後も最低賃金法などには違反しない内容のものですが,労働者側からの反発が予想されます。その場合,就業規則を一方的に変更することは,できるでしょうか。  

 

A2:
1.労働者の同意を得ずに,就業規則を一方的に不利益に変更することは,原則としてできません。
2.ただし,労働条件を不利益に変更することについて合理的な理由がある場合には,これに同意しない労働者も,拘束されます。
 

 

就業規則の変更

「就業規則」とは,労働時間,賃金などの労働条件や従業員が守るべき職場規律を定めた規則の総称です。
労働基準法では,常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則を作成しなければならないと定めています。
就業規則を作成・変更する場合の手続も労働基準法によって定められていて,労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合,これが存在しない場合は労働者の過半数の代表者)の意見を聴いた上で(同法第90条第1項),労働基準監督署に届け出るとともに(同法第89条,第90条第2項),労働者に周知しなければなりません(同法106条)。ここに「意見を聴く」とは,文字どおり意見を聞くことを指し,同意を得るとか協議をするとかの意味ではありません。

就業規則の不利益変更の限界

このように,使用者は,労働基準法上は,労働者代表の意見を聴取しさえすれば,就業規則を自由に変更できることになっているのですが,これにはいくつか重大な制限がついています。
まず,労働基準法は,法令又は労働組合と使用者が締結する労働協約に反してはならないと定め,これに反する就業規則に対しては,行政庁は,就業規則の変更を命じることができるとしています(同法第92条)。
それでは,法令や労働協約に反しなければ変更は自由かというと,そうではありません。この点,様々な議論が交わされてきましたが,最高裁の判決の積み重ねにより,現在の判例では,不利益な変更は,合理的な変更と認められる場合に限って,効力を有するとしています。
すなわち,最高裁は,「秋北バス事件」の大法廷判決(昭和43年12月25日)で,「新たな就業規則の作成または変更によって,既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが,労働条件の統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒否することは許されない。」と判示しています。結局,就業規則の不利益変更がこれに同意しない従業員を拘束するかどうかは,変更の「合理性」によって判断されることになります。

合理性の要件

合理性の具体的な判断基準については,最高裁は現在,次のような見解を示しています(第四銀行事件最2小判平成9年2月28日)。


 

1.合理的とはどういうことか

「当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである。」

2.合理的かどうかを判断する方法

上記の合理性の有無は,具体的には,次の事情等を総合考慮して判断すべきである。
労働者が被る不利益の程度,
使用者側の変更の必要性の内容・程度,
変更後の就業規則の内容自体の相当性,
代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況,
労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応,
同種事項に関する我が国社会における一般的状況等。

要するに,最高裁判例によれば,合理的であるかどうかは,就業規則変更の必要性と労働者の受ける不利益を比較考量してケースバイケースで判断すべきということです。

こんな対応を!

上に述べたように,合理性がないと判断される不利益変更は無効となります。特に,賃金や退職金など労働者にとって重要な権利や労働条件に関する不利益変更には,「高度の必要性」が必要とされています。
むずかしい判断を求めることになるのですが,上記第四銀行事件最高裁判決が挙げた諸事情を貴社の場合に即して確かめた上で,意思決定をなさってください。

介護休業の給付 賃金の50%以上に引き上げへ

  厚生労働省は11月2日、家族の介護のため仕事を休む介護休業に関し、
休業中の給付金を現行の賃金の40%から少なくとも50%以上に引き上げる方針を決めました。

  育児休業と同率の67%へ引き上げる案を軸に調整します。

 介護休業は、在宅介護サービスの手配や施設の入居準備など介護態勢を整え離職を防ぐ制度ですが、総務省の2012年の調査では、取得率は3.2%にとどまっています。財源である雇用保険の失業給付が景気回復などで減っているため、財政に余裕が生まれ、介護休業給付金の引き上げに充てることとしました。
 厚労省は、給付金の増額と併せ、原則1回に限られている介護休業を分割取得できるようにすることなども検討しています。

2015年10月17日土曜日

健康保険制度の改正 平成28年4月~

平成28年4月以降の健康保険の改正点のご案内です。

1.健保:標準報酬月額の等級区分の改定

現在は「121万円」が上限です。
3等級区分が追加され「139万円」が上限となります。

追加される区分
  • 127万円
  • 133万円
  • 139万円

2.健保:標準賞与額の上限額

標準賞与額の上限額が引き上げられます。
改正前:540万円
改正後:573万円

標準報酬月額の等級区分の改定や標準賞与額の上限引き上げに伴い、現行の上限額を上回る報酬を受けている方に対する会社および被保険者負担の保険料が上昇します。

3.傷病手当金の計算方法

傷病手当金を計算する際の標準報酬月額は、「直近12月間」の平均額を用いることとなります。
出産手当金の計算も同様に変更されます。

これは「受給直前の標準報酬月額を高くし給付額を増やす」といった不正受給を防止すること等の観点から行われました。

改正前:直近月の標準報酬月額を用いて計算

改正後:支給開始日の属する月以前の直近の継続した「12月間の各月の標準報酬月額を平均した額」を用いて計算

2015年10月11日日曜日

当事務所は「クラウドソフトfreee」の認定アドバイザーに就任しました。

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50人未満の事業場が利用できる「ストレスチェック実施促進のための助成金」

 「ストレスチェック実施促進のための助成金」は、従業員数50人未満の事業場が合同で、医師・保健師などによるストレスチェックを実施し、また、ストレスチェック後の医師による面接指導などを実施した場合に、事業主が費用の助成を受けることができる制度です。

 具体的な助成対象と助成額は以下のとおりです。
(1)ストレスチェックの実施
 従業員1人につき500円を上限として、その実費額が支給されます。
(2)ストレスチェック後の面接指導などの産業医活動を受けた場合
 1事業場あたり産業医1回の活動につき21,500円を上限として、その実費額が助成されます(1事業場につき年3回が限度)
 助成金を申請するためには、まず独立行政法人労働者健康福祉機構に小規模事業場団体登録届を出した上で、ストレスチェックや面接指導を実施し、助成金の支給申請をする形になります。小規模事業場団体登録の届け出は平成27年12月10日まで、助成金の支給申請が平成28年1月末日までとなっています。
詳しくはこちら
ストレスチェック実施促進のための助成金の概要
http://www.rofuku.go.jp/sangyouhoken/stresscheck/tabid/1006/Default.aspx
申請様式とチェックリストのダウンロード
http://www.rofuku.go.jp/sangyouhoken/stresscheck/tabid/1007/Default.aspx
ストレスチェック実施促進のための助成金に関するQ&A
http://www.rofuku.go.jp/sangyouhoken/stresscheck/tabid/1024/Default.aspx

2015年10月4日日曜日

ストレスチェックのQ&Aが厚労省のHPで更新

ストレスチェックのQ&Aが厚労省のHPで更新

ストレスチェックについてのQ&Aが更新され厚労省のHPに公開されました。(平成27年9月30日)
更新された内容の要旨は以下のとおりです。
Q0-13 ストレスチェックの実施義務の対象「常時50 人以上の労働者」カウントについて
 A 「常時使用している労働者が50 人以上いるかどうか」の判断は、ストレスチェックの対象者のように、契約期間(1年以上)や週の労働時間(通常の労働者の4分の3以上)をもとに判断するのではなく、常態として使用しているかどうかで判断する。
   したがって、例えば週1回しか出勤しないようなアルバイトやパート労働者であっても、継続して雇用し、常態として使用している状態であれば、常時使用している労働者として50 人のカウントに含める必要がある。
Q1-1 産業医の職務に「心理的な負担の程度を把握するための検査の実施並びに同条第三項に規定する面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること」が追加されたが、産業医はストレスチェック制度にどこまで関与すれば、職務を果たしたことになるのか。
 A 労働安全衛生規則第14 条の規程は、産業医がストレスチェックや面接指導等の実施に直接従事することまでを求めているものではない。衛生委員会に出席して意見を述べる、ストレスチェック制度の実施状況を確認するなど、何らかの形でストレスチェックや面接指導の実施に関与すべきことを定めたものである。
  ただし、事業場の状況を日頃から把握している産業医が、ストレスチェックや面接指導等の実施に直接従事することが望ましいと考えている。
Q2-2 ストレスチェック制度に関する社内規程は、どのような形式で定めればよいか。、就業規則に該当するのか。
 A ストレスチェック制度に関する内部規程については、特に形式を問わない。何らかの形で、文書化すれば問題ない。また、就業規則に該当するものでもないため労働基準監督署への届出も必要ない。
   なお、厚生労働省のホームページに、モデル規程の例を掲載しているので、規程を定める際には、参考にしてほしい。
Q3-8 労働安全衛生法に基づくストレスチェックは年1回実施しており、それとは別に会社独自にストレスチェックを定期的に実施しているが、この会社独自の取組についても法令の規定に基づいて行わなければならないのか。また、監督署への報告は必要か。
 A 会社独自に実施するストレスチェックについても、それが労働安全衛生法のストレスチェックの定義に該当する検査を実施する場合は、個人情報の取扱い、実施者の範囲等を含め、法令に即して対応する必要があり、不備があった場合は、法違反という扱いになる。
   一方、労働基準監督署長への報告については、年に1度報告すれば足りるので、2回実施している場合にも、1回分のみ報告をすれば問題ない。
Q3-9 労働安全衛生法に基づくストレスチェックは年1回実施しており、それとは別に安衛法に基づく健康診断の問診としてCES-Dを実施し、その結果は本人の同意を取らずに企業が把握しているが、法的に問題あるか。
 A CES-D は、今回のストレスチェック定義に基づけば、ストレスの要因や周囲のサポートに関する質問項目を含むものではないので、企業で実施することに法的な制約はかからないが、ストレスチェック制度では、個人のストレスの状況を本人の同意なく企業側に知られないようにするための制限を設けていることを踏まえれば、健康診断の中でCES-D を実施し、本人の同意を取らずにその結果を企業が把握することは望ましくない。
   実施する場合は、今回のストレスチェック制度に準じて、結果を企業側に提供する場合は本人の同意を取る等の対応が望ましい。
Q5-3 個々の労働者のストレスチェックの受検の有無の情報について、受検勧奨に使用する途中段階のものではなく、最終的な情報(誰が最終的に受けなかったのかという情報)を事業者に提供して良いか。
 A ストレスチェックの受検の有無の情報については、個人情報という取扱いにはならないので、事業者に提供することは可能。
   ただし、どのような目的で最終的な受検の有無の状況を事業者に提供するのか、不利益な取扱いにつながらないようにすることなどについては、衛生委員会等で調査審議を行い、社内のルールとして決めておくことが望ましい。
Q6-6 看護師や精神保健福祉士が、研修を受けなくてもストレスチェックの実施者となれる健康管理等の業務の経験年数三年について、例えば健診機関や病院で企業健診に関わっているような場合や、特定保健指導のみに従事しているような場合も経験年数に含まれるのか。
 A 三年以上企業健診に従事した者であれば、原則として労働者の健康管理等の業務に従事したと見なせるので、研修を受けなくてもストレスチェックの実施者となることは可能。
   ただし、企業検診に従事したといっても、例えば問診票の点検や採血業務だけ担当していたなど、従事した業務が一般的な健康管理と違いのない業務に限定され、労働者の健康管理についての知識を得る機会がないとみなされる場合は、労働者の健康管理等の業務に従事したとはいえないため、業務内容によっては該当しない場合もあるので留意が必要。
   判断に迷う場合は、最寄りの労働基準監督署に相談してほしい。  なお、住民検診に関する業務は労働者の健康管理等には該当しない。
  また、労働者の健康管理等の業務には、労働者に対する保健指導も含まれるので三年以上労働者に対する特定保健指導に従事した看護師であれば、原則として労働者の健康管理等の業務に従事したと見なせるため、研修を受けなくてもストレスチェックの実施者となることは可能。
Q10-2 ストレスチェック結果の保存を担当する者が交代する場合、過去のストレスチェック結果を引き継ぐことはできるのか。
 A ストレスチェック結果の保存を担当する者が変更になる場合、過去のストレスチェック結果を引き継ぐことは可能。
   事業者には、ストレスチェックの結果の記録の保存が適切に行われるよう、必要な措置を講じる義務がある。したがって、保存を担当する者が変更された場合も、保存が適切に継続されるような対応が法令上求められている。
その中には、保存を担当する者の指名や、保存を担当する者を変更した場合の結果の引き継ぎも含まれるため、保存を担当する者の変更に伴い、事業者の指示に基づき、これまでの保存担当者が、新たに指名された保存担当者に過去のストレスチェック結果を提供する行為は、労働安全衛生規則第52条の11で義務付けられている行為を遂行するために必要な行為である。
   そのため、個人情報保護法第23条の適用は受けず、安衛法第104条に抵触もせず、本人同意を取得する必要はない。
Q11-3 事業場の規程として、数値基準により高ストレスと判定された者については、全員面接指導の対象者とすると決めていたとすれば、システムでストレスチェックを実施し、その結果が高ストレス者に該当するかどうか、面接指導の対象者かどうかを瞬時に出力し、それをもって結果の通知まで終了したとすることは可能か。
 A  高ストレス者の判定は自動的に行ってもよいが、面接指導が必要かどうかは、実施者が確認・判断しない限り、ストレスチェックを実施したことにはならない。
    したがって、例えば、高ストレス者と判定された者を、実施者の確認・判断を経ることなく、面接指導の対象者として決定し、本人に通知するといったルールを定めたり、そうした処理を自動的に行うプログラムを用いてストレスチェックを実施することは不適当。
Q12-5 事業者が面接指導の実施を外部の医療機関の医師に依頼した場合、医師は保険診療扱いとしてよいか。
  A 保険診療扱いはできない。労働安全衛生法に基づくストレスチェック後の面接指導は、事業者に実施義務を課しているので、その費用は当然に全額事業者が負担すべきものでとなる。

厚労省HP「職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策・心身両面にわたる健康づくり(THP) ストレチェック制度 Q&A」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150507-2.pdf

厚生労働省HP「職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策・心身両面にわたる健康づくり(THP)ストレスチェック制度実施規程例」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/150930-1.pdf