就業規則の変更
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「就業規則」とは,労働時間,賃金などの労働条件や従業員が守るべき職場規律を定めた規則の総称です。 労働基準法では,常時10人以上の労働者を使用する使用者は,就業規則を作成しなければならないと定めています。 就業規則を作成・変更する場合の手続も労働基準法によって定められていて,労働者代表(労働者の過半数で組織する労働組合,これが存在しない場合は労働者の過半数の代表者)の意見を聴いた上で(同法第90条第1項),労働基準監督署に届け出るとともに(同法第89条,第90条第2項),労働者に周知しなければなりません(同法106条)。ここに「意見を聴く」とは,文字どおり意見を聞くことを指し,同意を得るとか協議をするとかの意味ではありません。 |
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就業規則の不利益変更の限界
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このように,使用者は,労働基準法上は,労働者代表の意見を聴取しさえすれば,就業規則を自由に変更できることになっているのですが,これにはいくつか重大な制限がついています。 まず,労働基準法は,法令又は労働組合と使用者が締結する労働協約に反してはならないと定め,これに反する就業規則に対しては,行政庁は,就業規則の変更を命じることができるとしています(同法第92条)。 それでは,法令や労働協約に反しなければ変更は自由かというと,そうではありません。この点,様々な議論が交わされてきましたが,最高裁の判決の積み重ねにより,現在の判例では,不利益な変更は,合理的な変更と認められる場合に限って,効力を有するとしています。 すなわち,最高裁は,「秋北バス事件」の大法廷判決(昭和43年12月25日)で,「新たな就業規則の作成または変更によって,既得の権利を奪い,労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されないが,労働条件の統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって,当該規則条項が合理的なものである限り,個々の労働者において,これに同意しないことを理由として,その適用を拒否することは許されない。」と判示しています。結局,就業規則の不利益変更がこれに同意しない従業員を拘束するかどうかは,変更の「合理性」によって判断されることになります。 |
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合理性の要件
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合理性の具体的な判断基準については,最高裁は現在,次のような見解を示しています(第四銀行事件最2小判平成9年2月28日)。 |
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1.合理的とはどういうことか
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「当該規則条項が合理的なものであるとは,当該就業規則の作成又は変更が,その必要性及び内容の両面からみて,それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても,なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に,賃金,退職金など労働者にとって重要な権利,労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生ずるものというべきである。」 |
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2.合理的かどうかを判断する方法
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上記の合理性の有無は,具体的には,次の事情等を総合考慮して判断すべきである。 |
・ | 労働者が被る不利益の程度, |
・ | 使用者側の変更の必要性の内容・程度, |
・ | 変更後の就業規則の内容自体の相当性, |
・ | 代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況, |
・ | 労働組合等との交渉の経緯,他の労働組合又は他の従業員の対応, |
・ | 同種事項に関する我が国社会における一般的状況等。 |
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要するに,最高裁判例によれば,合理的であるかどうかは,就業規則変更の必要性と労働者の受ける不利益を比較考量してケースバイケースで判断すべきということです。 |
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こんな対応を!
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上に述べたように,合理性がないと判断される不利益変更は無効となります。特に,賃金や退職金など労働者にとって重要な権利や労働条件に関する不利益変更には,「高度の必要性」が必要とされています。 むずかしい判断を求めることになるのですが,上記第四銀行事件最高裁判決が挙げた諸事情を貴社の場合に即して確かめた上で,意思決定をなさってください。 |
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