2017年1月27日金曜日

『キャリア支援の視点から見る「中年の危機」』(第3回)

中央職業能力開発協会のCSCスーパーバイザー泉田洋一氏が、中央職業能力開発協会のホームページ
「キャリア塾」に2016年7月より2016年12月まで6回にわたり連載された内容をご紹介します。

私(井上雅夫)も中央職業能力開発協会「CSCのためのワークショップ」の公認インストラクターです。
CSCとはキャリア・シフトチェンジのことで、現在40代半ばから50代の方が、シニア世代になっても
職場の戦力として活き活き働くためにはどうしたらよいかを自ら考え、今後の行動変容を促すための
研修です。

CSCのためのワークショップについてはこちら

『キャリア支援の視点から見る「中年の危機」』(第3回)

1.「中年」とは

この連載では、『キャリア支援の視点から見る「中年の危機」』を、企業/人事部門の観点から
紹介していきます。前回までの要点は、次の通りです。
☆この連載では、「中年」を45歳~54歳ぐらいの方とします。
☆中年期は人生の折り返し地点でもあり、職業人生の折り返し地点でもあります。ですから、
中年の場合の中長期視点として、定年・雇用延長というイベントは外せません。
定年・雇用延長と言う大きな節目を、中年期のうちから、しっかり考えておくことが大事です。

今回は、「40歳定年制」という考え方を説明します。

2.「40歳定年制」とは

「40歳定年制」は、2012年7月に、政府の国家戦略会議「フロンティア分科会」で東京大学大学院
教授の柳川範之氏が提言した施策です。

「40歳定年制」という言葉を初めて目にしたとき、「年金支給年齢が65歳に引き上げられるのに、
いや、もっと遅くなる可能性もあるのに、『40歳定年制』って、何をおかしなことを言っているんだ?」
と感じられた方も、多いのではないでしょうか。

≪40歳定年制≫
必ずしも一生を一つの会社で過ごすのではなく、環境や能力の変化に応じて20~40歳、
40~60歳、60~75歳と三つの期間でそれぞれに合った活躍できる働き場所を見つけ、
元気なうちは全ての国民が活き活きと働く社会となる。

「40歳定年制」という言葉が刺激的なため、この言葉を聞いた人は、それだけで否定的になって
しまうかもしれません。しかし、「40歳は、これからのキャリアを再構築する時期」くらいの感じで
捉えれば、納得がし易いかもしれません。75歳まで働く(働かなければならない?)ために、
「40歳定年制」を提言しているのです。

筆者が参加している、日本人材マネジメント協会(JSHRM)のリサーチプロジェクトでは、
「2段階定年制」を提案しています。

≪2段階定年制≫
企業は、従来の60歳定年(第2定年)に加えて、40歳代で第1定年を設定し、60歳定年の60歳まで
十分な時間があるうちに、これまでのキャリアを棚卸し、高齢期のキャリアについて考える機会を
提供し、充実した高齢期に向けて準備させる必要がある。つまり、2段階定年制は、自分で生きる
力をつけ、自分でキャリアを開発する出発点としての「自己発見型」定年制なのである。

「2段階定年制」は、「フロンティア分科会」の「40 歳定年制」と、似たような考え方ですが、
「キャリアの棚卸し」や「キャリアについて考える」という具体策が提案されています。

以前は、定年が55歳でした。その後、定年が60歳なり、現在は65歳迄働き続ける必要がでて
きました。働く年数が増えますが、同じ知識・技能で同一の仕事をこなせる期間は短くなってきて
います。こういう状況を考えると、企業人生の途中で、キャリアをチェンジするという発想は自然
だと思います。

「中年」になる45歳は「仕事人生の正午(折り返し地点)」であると言えます。ですから、「中年」に
なる少し前の40歳代前半に、「キャリアの棚卸し」をし、「中年」以降の働きかたを考えるのは
いいタイミングでしょう。「キャリアの棚卸し」をする際には、その方が社会人になった時代と、
現在の働き方・仕事の仕方、知識・技術、人事制度等、色々な状況・環境が変わっていると言うこと
を認識することが大事です。



3.人事部門が行うこと
企業の人事部門は、中年期に入った従業員に対し、「キャリアの棚卸し」をしてもらう機会を設定
しましょう。人事考課が悪い人、職位の低い人だけを対象にする企業がたまにありますが、
これは避けたほうがよいです。「キャリアの棚卸し」が、罰則のように思われてはその効果が
期待できません。一度、悪い評判がたってしまうと、それを取り戻すのは大変時間とパワーの
かかることです。人事部門は、そうならないようにしなければなりません。
人事部門には、40歳になった全従業員に「キャリアの棚卸し」を実施するというような制度を設ける
ことを推奨します。時間は、平等に流れるのですから、40歳の従業員の方は、皆、20年後、60歳に
なるのです。これは、職位が高かろうが低かろうが変わらないのです。
時間とお金はかかりますが、「キャリアの棚卸し」制度を定着させるには、これが一番いい方法だと
思います。

「キャリアの棚卸し」制度を実施する際には、「何のために、キャリアの棚卸しを実施するのか」を
きちんと説明することが大事です。40歳以降の仕事人生を、より納得いくものにしていただくために
、「キャリアの棚卸し」をするのだということを丁寧に説明しましょう。これを実施しないと「キャリアの
棚卸し」が「ただやっただけ」になってしまいます。
今回は、「中年」は仕事人生の中間地点であり、長い残りの仕事人生を充実するためには、一度
立ち止まり、「キャリアの棚卸し」をする大切さを説明しました。次回は、「キャリアの棚卸し」の仕方
について、具体的に説明します。
                                                      以上

※JSHRM(Japan Society for Human Resource Management:日本人材マネジメント協会)は、
「日本におけるHRMプロフェッショナリズムの確立」を使命に、我が国の人材マネジメントを担う
方々のための会員(年会費制)組織として2000年に設立されました。以来、日本を代表する
人材マネジメントの専門団体として、人材マネジメントに係る方々のための能力向上と
会員ネットワークを活かした情報交換・相互交流、更にグローバルな視点からの各種調査研究・
提言・出版などの諸活動を展開しています。


筆者プロフィール
泉田 洋一 氏(中央職業能力開発協会CSCスーパーバイザー)
学習院大学 理学部数学科卒
27年間、IT企業に勤務し、主に、人事、人材育成を担当。SEの新人/若手教育、選抜者研修/昇格者研修、キャリアデザイン研修(27歳、32歳、42歳、55歳)を担当。日本人材マネジメント協会会員。国家資格・1級・2級キャリアコンサルティング技能士。
メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅰ種合格。産業カウンセラー。

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