2015年12月7日月曜日

103万円、130万円の壁

2015年12月7日の日経新聞に下記のような記事が載りました。
誤解されている人も多いようなので ここで金額の壁についてまとめてみました。

日経新聞の記事
▼130万円の壁 パート労働などの収入が130万円を超えると、正社員と同じ給与所得者として位置づけられ、厚生年金や健康保険など社会保険料がかかる。主婦層が手取り額を減らさないように労働を抑える要因とされ「130万円の壁」と呼ばれる。収入が103万円を超えると、専業主婦がいる世帯の所得税を軽くする配偶者控除が受けられなくなる「103万円の壁」もある。
*現在、年収130万円以上で社会保険料がかかるのは、正社員の3/4以上の時間働いた場合だけ。

1.誤解の多い103万円の壁と130万円の壁

実は4つの壁があるのです。将来的には5つの壁。

①103万円:所得税がかかる基準
②130万円:60歳未満の人が社会保険の被扶養者になれる基準
③141万円:特別配偶者控除が受けられなくなる基準
④180万円:60歳以上の人が社会保険の被扶養者になれる基準
⑤106万円:2016年10月以降、新たに発生する社会保険の壁

103万円の意味
年収103万円とは、所得税がかかる基準です。
給与収入の場合、給与所得控除というものがあります。これは、最低65万円を年間の給与収入から控除することができるというものです。

所得=収入―経費(給与所得控除65万円含む)

さらに、税金は、だれでも基礎控除38万円というものがあります。

所得―所得控除(基礎控除38万円)=課税所得

つまり、65万円と38万円の合計額103万円までは、自分自身に税金がかからないと言うことになるのです。 妻本人がパートやアルバイトをしている場合、103万円までのアルバイトなら、妻本人には税金がかからないということです。

次に、主たる納税者側(夫)側をみてみることにします。
よく妻の「年収が103万円以下」であれば「配偶者控除が受けられる」といわれます。しかし配偶者控除の基準が「年収103万円以下」とは税法のどこを見ても書いてありません。

正しくは「合計所得金額38万円以下」というのが控除適用配偶者になるための要件です。

ではなぜ税法の正式な解釈である「合計所得金額38万円以下」より「年収103万円以下」の方がよく使われるようになってしまったのでしょう?
これは「配偶者の稼ぎを得る手段は何といってもパートだろう」という前提条件に立っているからです。所得税の基本は、収入(一般的には年収)から必要経費を差し引くことによって所得を求めるところからスタートします。パートの場合、税務上、給与所得という所得区分となりますが、給与所得であれば前述の給与所得控除額として最低65万円差し引くことができるので、パートで年収が103万円ちょうどの場合の所得は以下のような算式となります。 103万円(給与の収入金額)-65万円(給与の必要経費)=38万円(給与の所得金額) この人が他に何も収入がないのなら、この38万円が合計所得金額となり、配偶者控除の要件を満たすことになります。

つまり、「年収103万円以下」という基準は「配偶者の稼ぎを得る手段は何といってもパートだろう」ということを前提条件に逆算して求められたものなのです。
申告する夫がその奥さんを扶養に入れ、配偶者控除を受けるためには合計所得金額を38万円以内に抑えなければなりません。
奥さんの年収から最低給与所得控除65万円を差し引いた金額が、38万円を超えないようにするためには、奥さんの合計所得金額を「103万円」以内に抑えなければならないという訳なのです。
配偶者である妻がこの範囲の所得におさまれば、主たる納税者側(夫)側が、「配偶者控除の38万円」を受けることができるのです。
但し、この103万円の壁についても誤解があります。それについては、2で詳しくお話します。


130万円の意味(被扶養者が60歳以上の場合180万円)
130万円の金額とは、国民年金の第3号被保険者や健康保険の被扶養者など社会保険の年収基準額のことです。
この130万円の基準が適用されるのは、「将来に向かって130万円の収入の見込みがあるかどうか」で判断されますので、過去、去年1年間で130万円の収入があったかどうかで判断されないのです。

あくまでも「将来に向かって」なのです。


●年収が130万円未満の場合
年収が130万円未満の場合、被扶養者となり、自分で保険料を支払う必要がありません。 もちろん 被保険者の被扶養者になるには、130万円未満という要件だけでなく、被保険者の収入の2部分の1以下であることが必要です。

●年収が130万円以上の場合
年収が130万円以上の場合、配偶者の被扶養者からはずれ、自分で社会保険料を支払う義務が発生します。

2、「103万円の壁」に対する誤解

女性の就業を阻害する一因として配偶者控除の廃止が議論されていますが、103万円の壁については、次のような誤解も多いように思います。
103万円を超えると配偶者控除がなくなる!
 103万円を超えると38万円の配偶者控除がゼロになると思う人もいますが、それは誤解です。103万円以上~141万円未満の間は「配偶者特別控除」があり、控除額が段階的に引き下げられる仕組みになっています。ただし、控除を受ける人の合計所得が1000万円を超えると、配偶者特別控除は受けられません。
103万円を超えると税金が増えるから損!
 確かに、控除される金額が下がれば夫の所得税や住民税は増加します。また妻自身も新たに所得税や住民税を負担なくてはなりません。しかし「収入の増加>税金の増加」ならば、世帯の手取り額としてはプラスになります。

(1)103万円が“壁にならない人”

夫の年収500万円、現在100万円のパート収入を得ているA子さんを例に、妻の収入の変化と世帯の手取りの変化を確認してみましょう。(※妻の所得控除は基礎控除のみと仮定)

ks_nensyuu01.jpg

 妻の収入が103万円を超えて、104、110、120万円と増加するごとに夫と妻の税金も増えます。しかし、それ以上に収入増となっていますので、世帯としての手取額は増えています。
 仮に、夫の所得税率が33%になると妻の収入増加の半分程が手取りの増加額となります。つまり夫の税率が高くなるほど、手取額の増加は小さくなります。
 但し、会社によって103万円を超えると家族手当が支給されなく場合がありますので注意してください。


(2)103万円が“壁になる人”


ks_nensyuu02.jpg

 夫の合計所得が1000万円(年収約1231万円)を超えると、配偶者特別控除が受けられません。妻の収入が103万円を超えた段階で、夫の課税所得が38万円増加することになります。また税率も高いので、所得税の増加額が大きくなります。
 夫の年収が2000万円程度(所得税率40%)になると、妻の収入が120万円でも世帯手取りは、100万円の時に比べてマイナスとなります。103万円が壁になる人は表(2)のように夫の合計所得が1000万円を超える人です。表(1)のように配偶者特別控除が受けられる人は、103万円は壁にはなりません。
 しかし、表(1)の場合でも103万円を超えると勤務先の家族手当がなくなる場合や、妻の収入の増加により保育料負担が増加する家庭では、103万円が壁になる可能性もあります。

3.かしこい働き方を選択する

消費税8%となり、月20万円を消費する家庭では、年間で7万2000円の増税となりました。A子さんの場合、103万円の壁にこだわらず110万円働けば、消費税分をA子さんの働きでカバーすることができるようになります。
 「手取りが増えても稼いだ半分しかプラスにならないのは嫌だ」
 「その程度のプラスなら子どもとの時間を大切にしたい」
 そういう考え方も一理あると思います。また自身のキャリアプランを考慮して「手取りが減っても働きたい」という人もいると思います。大切なことは、断片的な情報をうのみにせず、社会保険料も含め、正しい情報を得て自分らしい働き方や暮らし方を考え、選択することだと思います。

4.新たに出現する106万円の壁 パートの社会保険料が変わる!?


 2016年10月、パートタイマーなどの働き方に影響を及ぼす法律の改正があることをご存知でしょうか。2014年8月、「短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大」が決定し、2016年10月から施行されることになりました。
実はこの改正のため、パートタイマーとして扶養内でいくら稼ぐかを検討する際に目安とされる「年収103万円の壁」や、「年収130万円の壁」に続き、新たに「106万円の壁」というものが出現することになります。

 106万円の壁とは

2016年10月から、短時間労働者のうち社会保険(厚生年金・健康保険)の加入対象者が拡がる見通しで、年収130万円に満たないパートタイマーでも、拡大対象となった場合は、社会保険の保険料納付の義務が生じます。
どのように厚生年金の加入対象が拡大されるのか、以下にまとめてみましょう。

厚生年金・健康保険の加入対象となる条件

 ①現在

 労働時間が週30時間以上(※)
※正社員の所定労働時間が週40時間の場合
 
 ②2016年10月~

  1. 週20時間以上
  2. 月額賃金8.8万円以上
    (年収106万円以上)
  3. 勤務期間1年以上
  4. 従業員(※)501人以上の企業
  5. 学生は適用除外
    1.~5.のすべてを満たす
(※従業員は被保険者数)
現在は「正社員の4分の3以上の時間」勤務すると社会保険に加入することになります。改正後は、「月額賃金8.8万円(年間106万円)以上、週20時間以上勤務」で加入することになり、これが新たに出現する「106万円の壁」となるわけです。
当面は、従業員数501名以上といった大企業のみが対象ですが、将来的にはそれ以外の企業へも広がる可能性が高いため、加入対象となるパートタイマーの方は増えていくと思われます。


0 件のコメント:

コメントを投稿